地酒紀行2 玉風味と上杉景勝

玉風味の酒ラベル

 玉風味の蔵がある新潟県北魚沼郡守門村は、新潟県から福島県会津若松に抜けるJR只見線沿線にある。只見線に沿って走る国道252号は旧会津街道で、戊辰戦争の時、河合継之助が敗走した道でもある。
  守門村に目黒邸という豪農の屋敷がある。この屋敷がどれほどすごいかは実際に見てもらわないと表現のしようがないが、目黒家が新潟県で最初に自動車を購入した民間人であり、大正時代には350アンペアの容量で全室を電化していたといえば、少しはわかってもらえるだろうか。江戸時代には魚沼領23ヶ村の割元庄屋を務め、名字帯刀を許された家柄である。
 「玉風味」は、玉川醸造として大正年間に法人化されるまでは、目黒家の銘柄であった。目黒家は江戸初期に酒造免許状を得て営業を始めた。もちろんそれ以前から自家用の酒を造っていたことは間違いないであろう。目黒邸資料館で見たビデオに、面白いエピソードが紹介されていた。慶長3(1598)年、越後から会津若松に移封された上杉景勝が、会津街道を移動中に目黒邸で休憩した。そのさいに出された酒をたいそう喜び、朱塗りの杯を与えたという。その杯も展示してあったが、二本松の絵柄で、本物かどうかはちょっとわからなかった。
 玉川酒造は、無料酒蔵見学を行っている。夏でも雪に覆われた冷蔵室があり、大吟醸酒をはじめ、13種の酒を試飲させてくれる。ここで「玉風味」純米吟醸酒4合瓶を1500円で買った。淡麗辛口で、新潟の酒らしい味でありながら、ひときわ切れの良さを感じた。
 目黒家の客間で床机に腰を下ろし、目黒家当主の注ぐにごり酒を大杯で飲み干す上杉景勝の姿を想像しながら飲む玉風味は、格別の味わいなのであった。

<1993年7月27日記>