地酒紀行6 鬼太郎で町おこし 千代むすび

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 私が自分の小遣いで初めて買ったマンガは講談社コミックス版の「ゲゲゲの鬼太郎」だった。子どもの頃から鬼太郎、ねずみ男目玉おやじなど、水木マンガのキャラクターが大好きで、似顔絵は今でも得意だ。我が家の玄関にある水槽(メダカ、沼エビ、タニシがいる)には、この3人?のフィギュアが鎮座している。
 「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめ、「河童の三平」「悪魔くん」などの少年マンガ、また戦記マンガやエッセイでも有名な漫画家の水木しげるさんは、大阪府で1922年に生まれ、その後すぐに祖先の地である鳥取県境港市に帰郷し、青年期まで過ごした。現在84歳だが相変わらずお元気で、80歳の記念として、画集「妖怪道五十三次」を完成させた。歌川広重の「東海道五十三次」をアレンジした作品集で、描線の切れ味、イマジネーションの若々しさはとても80歳の作品ではない。
 「鬼太郎」が雑誌に連載され、好評を博したのは1960年代後半だが、その後も鬼太郎人気は衰えず、何度か雑誌連載・テレビ化を繰り返している。人気の秘密は、鬼太郎はもとよりネズミ男目玉おやじ子泣きじじい、砂かけばばあ、一反もめんなど、キャラクター造形とネーミングの秀逸さだろう。鬼太郎のマンガを見たことが無くても、鬼太郎や目玉おやじを知らない人はいないのではなかろうか。江戸の昔から日本人が愛してやまない、狸の置物と同じ懐かしさがあるのだ。鬼太郎は日本マンガが生んだ、アトムと肩を並べる名キャラだと思う。
 水木さんは日本各地に残る妖怪伝説を掘り起こし、彼らを肖像化する仕事に心血を注いだことでも知られているが、水木さんの妖怪好きは、境港市での子ども時代に育まれた。近所に「のんのんばあ」というおばあさんがいて、土俗の神様や異界やお化けの話をたくさん聞かされたという。だから、境港は水木さんの故郷であるとともに、日本妖怪の聖地でもあるのだ。

 1993年、境港市の「水木しげるロード」第1期工事が完成した。境港駅から海に向かうメインストリートの歩道に、鬼太郎やネズミ男などのブロンズ像を配したもので、公式ガイドブックには81体と記されているが、今では全国の企業から協賛を受け119体に増えているらしい。
 そして2003年、「水木しげる記念館」が誕生し、境港駅から記念館までの800mにわたる区域は水木ワールドの一大テーマパークとなった。駅前交番、郵便ポストはもとより、床屋さんにも鬼太郎が!

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 おみやげや日本酒、ビールもすべてが鬼太郎である。一蓮托生というか、その割り切りっぷりに清々しささえ感じる。観光客も100%鬼太郎目当てだ。道を歩く人のうち1割くらいは実は妖怪なのではないか。
 「水木しげるロード」の仕掛け人は、境港市職員。当初商店会に企画を持ち込んだときは「妖怪は印象が良くない」と乗り気ではなかったらしいが、職員の熱意で実現にこぎ着け、年間2万人の観光客が、2005年には85万人に激増。その経済効果は50億円だそうだ。

鬼太郎を愛する人たちがたくさんいて、とても嬉しい。
 皆さんも、ぜひ鬼太郎に会いに行ってほしい。そして、ネズミ男のブロンズ像と一緒に記念写真を撮ろう。

 さて、日本酒である。境港市には酒造蔵は1軒、「千代むすび酒造株式会社」がある。全国新酒鑑評会でも金賞・入賞の常連蔵だ。駅から伸びる鬼太郎ロードを歩いてすぐ右手に酒造蔵とショップがあった。裏手に歴史を感じさせる木造の家屋があったが、一部解体されていたので、新社屋に建てかえるのかもしれない。

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 せっかく水木さんの聖地に来たのだからと、鬼太郎ラベルのお酒「鬼太郎純吟 無濾過」を購入した。ラベルは股旅姿で愛嬌のある鬼太郎だが、味はなかなかの辛口だ。ほんのり香るやや淡麗の酒で、料理と相性が良さそうだ。もう1本「小悪魔」という微発泡酒も購入したが、これも辛い。「千代むすび」はかなり辛口傾向の蔵と見た。千代むすび酒造は、近年焼酎づくりにも力を入れているらしく、米焼酎芋焼酎そば焼酎の製造石高が日本酒の石高に近づいてきている。日本酒が辛いのは焼酎に力を入れていることと関係があるのだろうか。まあ、そんなことはないと思うけど。

このほか、境港市には鬼太郎ビールの醸造元もある。3種類それぞれ個性的で、味に深みがあっておいしいのだけれど、小瓶が1本650円なので、「おみやげに買うんだから」と割り切らないと手が出ない。

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 今回は境港市を旅したが、個人的な好みで水木さんと鬼太郎のお話に終始したため「酒紀行」から離れてしまった。日本酒の話題を期待した方には申し訳ない。ご容赦願いたい。

<2006年8月9日記>